湯治と料理

– 湯と食で心と身体を癒す –

湯治と料理 – 湯と食で心と身体を癒す –

日本は温泉資源に恵まれ、古来から独特の湯治文化がある。
長い滞在を通し、温泉の効能で心身を整えていく保養・療養の原型とも言われているのだ。

源泉が湧き出す大地から収穫される食材も、同じ凝縮された生命力だろう。
自然の恵みの湯と美食が極上の湯治の旅へと誘うようだ。

「藁焼きキンキと百合根」

冬の醍醐味のひとつは、露天風呂だ。滔々と流れる湯は縮こまった心と身体を解きほぐし、
雪景色や冷たい外気が心地よく感じられるほど温もる。

この料理は身体の内側からも美味しく温まってほしいと腕を振るった焼き物、
「藁焼きキンキと百合根」だ。

冬に旬を迎える高級魚のキンキは脂の乗りが抜群で、刺し身や様々な料理に活用するため身が大きなものを仕入れている。今日は、炭火でじっくりと焼いていく一皿にした。身から滴り落ちる脂で炎が暴れるのを巧みにコントロールしながら、あえて焦げ付かせずに焼き上げる。仕上げに藁を一つかみくべると瞬く間に炎に包まれ、藁の香ばしさが立ち込める。

キンキに合わせるのはニセコ産の百合根。百合根には火を通し、すり潰してソースにしたものと、形をとどめたものをニセコの雪に見立ててあしらった。百合根の白とキンキの赤のコントラストが鮮やかに食慾をそそる。キンキの脂は飽和脂肪酸が少なく体にやさしい。百合根は古くから薬としても用いられており、食物繊維が豊富で整腸に良い効能がある。
身体を整えながらの美食には、昆布出汁で炊いた花豆を乗せた地元のカボチャ「ダークホース」のマッシュを添えた。キンキと百合根にカボチャの甘さが相まって心和む味わいに仕上がっている。

「蒸した牡蠣と菊芋」

次の一皿は、温物の「牡蠣と菊芋」だ。

和え物は、本来、冷たい料理を指すが、あえて温菜として季節に合わせて温かい一品に仕上げた。牡蠣は強い甘味と濃厚でコクのある味わいが特徴の昆布森産を選んでいる。大ぶりの牡蠣は一度蒸して一口大に刻み、味のアクセントとしてニセコ産カリフラワーを一度素揚げする。それらをすりおろした菊芋とメレンゲで和えて軽く蒸し、仕上げにとろみのある出汁をかけた。

牡蠣はとろりと半生を保つ蒸し加減で、コリっとしたカリフラワーとの食感の異なりも楽める。菊芋のメレンゲが包み込むと、すべてが一体となって喉を滑り落ちていく。「海のミルク」の名の通りの牡蠣、血糖値の上昇を抑えることから「天然のインスリン」と呼ばれるほどの菊芋は、薬効だけではない、目にも美しく降り積もる雪を想わせるようだ。

北海道の大地が生み出した「源泉」と「食材」が心身を癒してくれる。
現代にも取り入れやすい「新しい湯治」が叶いそうだ。

ライター 吉田 弥生 / フォトグラファー 榊山 元

和の料理人
田安 透 Toru Tayasu

旬というのは期間ではなく、時間単位で過ぎていきます。
北海道の豊富な食材から頭の中で多くの料理をイメージしていても、コンディションを優先しておしながきを変える毎日です。良い意味で刺激があり食材との鬩ぎ合いのように一期一会の一皿を仕上げています。今日の料理でお待ちしています。

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宿