太始

– はじまり -

太始 – はじまり –

悠久の時の流れの中で、密やかに育まれてきたニセコの自然。その力によって生まれる折々の表情の変化の積み重ね、幾千幾万の繰り返しの果てに創り出され、今に至るニセコの風景。羊蹄山とアンヌプリの二山を望み、ニセコの大自然と融合した趣深い里山の情景に溶け込む「楽 水山」。この地に新たな歴史を描き始める湯宿だ。

羊蹄山

都会とは隔絶された静謐な世界。車を降りると素朴な木戸が開かれ、民家の路地のようなアプローチからは柔らかな灯りが足元を照らす。次の扉が開くと一気に視界が広がり、高い天井まで設けられた全面の窓が切り取る羊蹄山は一幅の絵のようだ。圧倒的な存在感を放ち観る者を魅了する。目の前に広がるのは、光あふれ木の温もりに包まれた贅沢な空間。囲炉裏には赤々と炭火が熾り、鉄瓶からかすかに湯気が立ち上る。ギャラリーには北海道の歴史や後志にゆかりのある調度品が設えられている。

滞在する離れは、北海道の木をふんだんに使った木造の日本家屋の佇まいだ。それぞれの客室には日本古来の王朝の重ね色をテーマにした名前がつけられている。ずっとここに住んでいたかのような落ち着く空間が広がる。たっぷりと湯をたたえ、源泉が滔々と湧く湯に身を沈めると、ゆっくりと心身が解きほぐされていく。輝く月、またたく星々に見守られ、静寂に包まれて眠りにつく。

客室

この土地は、寒暖差のある四季がもたらす食材の恵みにあふれている。北海道の冬は、誰もが知るように大地の食材が少ない。しかし、食材は自然界の中で繊細に関係し合っている。例えば牛は、夏は青草、冬は干し草を食べる。そのため夏の牛の乳はさらりとして、冬の乳は甘味と濃厚さが増す。牛乳の味でさえ四季があるのだ。

北海道の冬野菜の特徴は「土くさい」と表現されることがある。他の地域ではあまり聞かない言葉だ。しかし、土くささは里山らしい食の多彩さを与えてくれる。

冬になると、ニセコ、後志、真狩では、さまざまな豆が収穫される。これらが甘く濃厚な牛乳と掛け合わさったらどうなるのだろうか。ソース、ピュレ、付け合わせ、デザートと、熟練の料理人のインスピレーションによって生まれる一皿。北海道の海の恵みと山の恵みを潤沢に使い、料理人が腕を振るう滋味あふれる料理の数々。旬の食材を余すことなく活かした一期一会の一皿に酔いしれる。

日常を離れ、自然と一体になる。羊蹄山と対峙し、自分を見つめ直す。刻々と表情を変えてゆく景色に心癒される。かつてこの土地に住んでいた人々の情景に想いを馳せながら、

里山に暮らすように滞在したい。

数百年続く伝統の宿のように、これから悠久の営みを続けていく湯宿のはじまりが、今訪れた。

新しいのに懐かしい。初めてなのに戻ってきた。 楽 水山 ――― 太始。

温泉

ライター 吉田 弥生 / フォトグラファー 榊山 元

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    2月4日に立春を迎えました。
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  • 五感2021/09/24

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  • 文月2021/07/09

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    北海道らしい食材があふれる季節の到来だ。

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  • 太始2020/12/01

    悠久の時の流れの中で、密やかに育まれてきたニセコの自然。その力によって生まれる折々の表情の変化の積み重ね、幾千幾万の繰り返しの果てに創り出され、今に至るニセコの風景。羊蹄山とアンヌプリの二山を望み、ニセコの大自然と融合した趣深い里山の情景に溶け込む「楽 水山」。

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  • 序章2020/02/03

    手つかずの雄大な自然と、そこに暮らす人々のささやかな営みが作り出した風景が融合する後志しりべし地区やニセコの風景。
    圧倒的な自然の力によって生み出される四季折々の表情は、見る人を魅了し感動をもたらす。

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宿