文月

– ある日の献立 –

文月 – ある日の献立 –

ニセコは一気に緑が深くなってきた。
北海道らしい食材があふれる季節の到来だ。

7月に旬を迎える食材で日本有数の美味を誇る北海道のウニ。
透明度の高い綺麗な海水に棲み、昆布を食べて育ったウニは産卵を控えて身にたっぷりと栄養を蓄えて最高の味わいになる。

旬のウニで料理長が創り上げた前菜は「塩水ウニ ニセコ五四〇 昆布のエキス」。

「塩水ウニ ニセコ五四〇 昆布のエキス」

倶知安町産のジャガイモを使ったヴィシソワーズに昆布エキスを抽出したジュレと塩水ウニを載せた一品だ。540日間、長期熟成したジャガイモはデンプンの糖化作用で甘みとコクが生まれる。それをスープに仕立て、余市産のムラサキウニと合わせ、昆布のジュレで軽さを演出している。
ぽってりとした濃厚なスープとウニが口の中で溶け合い、出汁の効いた昆布のジュレが二者を繋いで三位一体の味わいが生まれる。キリリと冷えたスープは初夏にピッタリの清涼感を出している。

もう一つは「二日間乾燥させた天然ホタテと塩水ウニ ホタテ出汁のソース」。

「二日間乾燥させた天然ホタテと塩水ウニ ホタテ出汁のソース」

噴火湾産の最大サイズのホタテ貝柱にバフンウニを挟み込み、軽い衣でさっと揚げてホタテのヒモで出汁を取った泡のソースをとろりとかけた。適度に水分が抜けたホタテは凝縮して旨味が増す。そこに濃厚なバフンウニを組み合わせることで旨味がさらに広がる。ホタテの泡ソースが味わいを膨らませ、ニセコ産のおかひじきがコリコリとした食感と爽やかさを演出する。

初夏の恵みのウニから生まれる料理はこの時期だけのスペシャリテだ。

ウニを使ったメニューはこの限りではなく、料理長のインスピレーションで変わる。
その日に入った他の食材の組み合わせでも変化するので、長期滞在しても一度として同じ料理が供されることはない。
一期一会のウニ料理が楽しめる。

北海道の短い夏、この時期だけの美味だ。

ライター 吉田 弥生 / フォトグラファー 榊山 元

季の記メールマガジンの
購読はこちら
  • 四季のうつろい2024/02/14

    2月4日に立春を迎えました。
    まだまだ雪深いニセコですが、暦の上では「春」です。

    READ MORE READ MORE,logo
  • 山懐の冬2023/08/01

    羊蹄山の山懐風情を、春夏秋冬、動画でお届けします。

    READ MORE READ MORE,logo
  • 豊かな水と緑2023/07/29

    根雪がきれいに溶け、川の水が豊かに大地の緑を濃くします。

    READ MORE READ MORE,logo
  • 季の記 動画 秋2023/03/29

    羊蹄山の山懐風情を、春夏秋冬、動画でお届けします。

    READ MORE READ MORE,logo
  • 北上する春2022/04/30

    楽 水山に、二度目の春がやってきた。
    羊蹄山の雪が解けだし、山懐の地表が水を吸い込んでいくと、ゆっくりと緑が広がってゆくのだ。
    山頂の残雪と草花のコントラストがある季節は、少し冷たい風も心地よい。

    READ MORE READ MORE,logo
  • 彩り2022/03/28

    四季の移ろいがはっきりしている日本の気候の中でも、ここ北海道の寒暖差がもたらす四季はその輪郭をくっきりと際立たせる。楽 水山を囲む原風景も、四季折々の自然の彩りをおもてなしに映してお客様をお迎えしているのだ。

    READ MORE READ MORE,logo
  • 春の音2022/02/22

    ニセコ樺山の里には雪がしんしんと降りながらも、2月に感じることは、陽の光がやわらかくあたたかくなってきたことだ。極寒の地で生きる命たちが、ささやかに春を知らせている。その足音に耳を澄ませ、料理へと紡ぎ上げる一皿だ。

    READ MORE READ MORE,logo
  • 雪のある暮らし2022/01/18

    ここニセコに降る雪は「パウダースノー」と呼ばれ、雪に触れてみると水分を感じることもなく軽いのだ。溶けずにさらさらと手のひらからこぼれていく。ゆっくりとした時間が流れる里山の暮らしは豊かで、凛とした冬はなおのこと気持ち良い。少し長い滞在で、雪のある暮らしを愉しみたい。

    READ MORE READ MORE,logo
  • 湯治と料理2021/12/14

    日本は温泉資源に恵まれ、古来から独特の湯治文化がある。
    長い滞在を通し、温泉の効能で心身を整えていく保養・療養の原型とも言われているのだ。

    READ MORE READ MORE,logo
  • 冬支度2021/11/17

    ニセコの大地は雪に覆われ深い眠りにつく。しかし、眠っているかのような冬でも旬を迎える食材も豊富にある。冬の献立の数々が織りなす料理の魅力を存分に愉しみたい。

    READ MORE READ MORE,logo
  • 収穫2021/10/20

    北海道に秋が訪れた。晴れた日でも頬をなでる風は冷たく、日に日に夕暮れが早まってくる。しかし、秋は「実りの秋」というだけあって種類豊富な食材が収穫期を迎え、恵みをもたらしてくれる。

    READ MORE READ MORE,logo
  • 五感2021/09/24

    鉄板焼きで味わう秋の食材。
    「素材を見る」、「焼く音を聞く」、「香ばしさ」、「旨味」、「触れる」五感を刺激する料理。

    READ MORE READ MORE,logo
  • 発酵2021/08/04

    人類は古代より調味料として、食品を保存するための手段として「発酵」という技法を育んできた。日本最古の調味料といわれる酢をはじめ、日本の食に欠かせない醤油、味噌、みりんは発酵調味料だ。いずれも昔ながらの日本の味、日本人の原点の味だ。

    READ MORE READ MORE,logo
  • 文月2021/07/09

    ニセコは一気に緑が深くなってきた。
    北海道らしい食材があふれる季節の到来だ。

    READ MORE READ MORE,logo
  • 太始2020/12/01

    悠久の時の流れの中で、密やかに育まれてきたニセコの自然。その力によって生まれる折々の表情の変化の積み重ね、幾千幾万の繰り返しの果てに創り出され、今に至るニセコの風景。羊蹄山とアンヌプリの二山を望み、ニセコの大自然と融合した趣深い里山の情景に溶け込む「楽 水山」。

    READ MORE READ MORE,logo
  • 序章2020/02/03

    手つかずの雄大な自然と、そこに暮らす人々のささやかな営みが作り出した風景が融合する後志しりべし地区やニセコの風景。
    圧倒的な自然の力によって生み出される四季折々の表情は、見る人を魅了し感動をもたらす。

    READ MORE READ MORE,logo
宿