冬を染める、蘇芳

ニセコで最も寒さが厳しい季節が到来

囲炉裏のぬくもり

ニセコで最も寒さが厳しい季節が到来した。雪に閉ざされすべてが深い眠りにつく冬の中、遠方より訪れたゲストをお迎えするのは温かな囲炉裏。楽 水山ではこの時期だけラウンジの囲炉裏に火を入れる。

緻密に組まれた備長炭は赤く芯から燃え、時折パチリとはぜる。心地良い音と共に細かな火の粉が舞い上がり、ささやかな星のようにきらめいては消えてゆく。炭の香ばしい香りがふわりと漂い、火の温もりが外の冷たい空気を忘れさせるように頬を包み込む。
影と光が織りなすゆらぎ、照り返しの熱、ふと立ち上る湯気…静かで力強い熾き火を眺めていると、気づかないうちに凝り固まっていた心が解放されていく。

囲炉裏の火はただの炎ではなく、心の奥まで温める燈火。囲炉裏を囲むひとときは冬を密やかに彩るこの時期だけの愉しみだ。



 

冬の彩りの部屋

楽 水山はすべて独立した離れ客室を備え、それぞれの部屋に四季の名前が付いている。季節に合わせた部屋に滞在するのも一興。全18室のうち冬の部屋は椿、初雪、蘇芳の3室。今回はそのうちの「蘇芳」を紹介する。

蘇芳とはインド・マレーシア原産のマメ科の植物。低木でその幹や枝にはトゲがあり、葉は軸の左右に鶏の羽のように広がって、黄色の花を咲かせる。古くから染料や漢方薬として利用されてきた。日本には飛鳥時代に中国から渡来し、平安時代には貴重な染料として貴族に愛用された。「蘇芳色」と称され、黒みがかった美しい赤紫色は高貴な色とされた。枕草子や今昔物語など日本の古典文学にも登場する。

蘇芳色のグラデーションで彩られたプレートが掛かる扉を開けると、温かな空気に包まれた開放感あふれる空間が広がる。リビングとベッドルームには障子を通して柔らかな光が差し込み、床の間のある畳敷きのスペースも設えられ、和と洋が自然体で融合する寛ぎの居室は「暮らすように泊まる」長期滞在を可能にしている。

冬の夜は長い。コーヒーブレイクをミルで豆を挽くことから始めてみるのも心地良い。ハンドルを回すと豆が砕ける小気味良い音が響き、コーヒーのかすかな香りが鼻腔をくすぐる。ドリッパーにセットしゆっくりとお湯を注いでいくと馥郁たるコーヒーの香りが立ち上がる。キンと空気が張りつめた冬景色を眺めながら丁寧に淹れた1杯を味わう…旅先だからこその「余白の時間」だ。

冬の温泉は殊更にしみる。寒さでこわばった身体を湯に預けると熱さが指先からジンと伝わっていつしか体の芯まで温まる。蘇芳の浴槽は信楽焼の大きな壺湯。濃厚な源泉が浴槽に滔々とかけ流されていて、全面ガラス張りの窓からは冬景色が一望だ。


 

日本の文化にふれる

ラウンジのテーブルに置かれた色彩豊かな千代紙の数々と折り鶴たち。日本独自の折り紙文化は大陸から紙がもたらされた6世紀から始まっている。たった1枚の紙を手で折るだけで、鶴や花、動物や飾りなど無限の造形を生み出せる折り紙。そのシンプルさと奥深さが世界をも魅了する。

好きな柄を選び、好きな形を折っていく。日本人なら誰しも経験したであろう折り紙遊びを今一度、楽 水山で体験してもらいたい。初めてであれば日本文化の魅力に気軽に触れてもらいたい……そんな思いで今年の冬に初めて用意した折り紙。折った作品は旅の記念にどうぞ。

日本の伝統文化もうひとつ。筆・墨・紙を用いて文字を表現する書道を楽 水山で体験できる。倶知安町在住の書道家・横山直子氏を講師に迎え、初めてでも気軽に書道に親しめる体験教室を「salon de楽」で開催している。
横山氏の書はニセコの雄大な自然からインスピレーションを受け墨の濃淡と余白の美で“自然と心の対話”を表現するスタイル。一筆一筆に生命の息遣いが宿り、大自然の力強さと静けさが表れている。

墨の香り、手に伝わる筆の感触、筆だからこそ生まれる濃淡やかすれ。筆を動かしていると無心になり、いつしか心が静かになっていくのが体感できるだろう。書道は技術だけではなく心を鍛える役割も担う、美意識の高い日本文化だ。


次回は 夜のしつらえへ、歩みを進める。

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